「怖い話」克服④-冥界行バス-

 

 

うしろ町という名の町につきました。そこで3年間くらしていたんですから忘れようもありません。そこの住人は皆片腕がありませんでした。でもそれ以外は何も普通の人間と変わりません。

繁華街はにぎわい、歌を歌う酔っ払い、串焼き屋の前でたむろする若者たち、親に手を引かれ、きょろきょろとあたりを見渡している子供、みな幸せそうだった・・・・

不安に駆られ、何も考えられないまま、しばらく歩いていると、私は思いがけない人物に出くわしました。かつての親友、わたしが裏切ってしまった友にあったのです。

私は今の職に就く前はある工場で働いていました。彼が上司にいじめられているのを知っていながら、そ知らぬふりをしていました。いや、それどころかいじめがエスカレートしていく中で、私もいやいやながらそれに加担していくようになりました。

そしてある日彼は、あやまって、腕を機械に巻き込まれて、肘から先を失いました。その彼に追い打ちをかけたのは私でした。腕を失った彼にやさしい言葉をかけるものも職場にはいました。しかし、それどころ陰で口汚くののしるものも多かった。私もその一人でした。

いやそれだけではない。じつをいうと、彼がいじめにあうようになったのは私がそう仕向けたからなんですよ。彼は、昔から優秀でした。工場勤務といっても僕たちは大学出の管理職候補ですからね、でも職人さんとの関係を築くのは大変ですよ。彼らはどんなに頑張ったって、僕たちより上には上がれないんですからね。

それは僕たち優秀でない人間も同じでした。そこをうまくやったわけです。昔からいけ好かない野郎でしたからね、親切で、優秀で、ただ少しほかの人間と考え方や感性がずれているところがありましてね、それが彼の欠点だったわけです。

それだけではない、彼が一番落ち込んでいるときに、彼の女と浮気をしましてね、それがトドメだったわけです。彼は、職場を辞めそれ以来音信不通になりました。いやもちろん後悔しましたよ。私だって人間です。この年になるまで考えつづけて、いまこの時も彼には頭を下げる事すら許されないと思っています。私は生きる資格のない人間なのです、愚かでろくでなしなのです。こんな人間はいない方がどれだけ望ましいか知れません。

 

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