「怖い話」【美しきベールは本物か?】

 

 

パーティーってあるじゃいないですか。シンデレラとかが行く、王子様がいて、西洋の小説で出てくる貴族のパーティーみたいなやつ。

今だったら合コンとかそんな感じだけど、昔大学生の頃に一度だけ、金持ちの友人のつてでそういうものに、出たことがあるんですよ。

慣れない正装をしてお酒とかをのんで。でもそういう場って、俺みたいな庶民には暑苦しくて、なんとなく、これもありがちですけれど、窓辺の方に行ったんですね。

 

例えば庭園に面した窓辺で、どこかのお上品なカップルがいちゃついているんじゃないかと、そういう物見遊山もあって、そしたら、窓のカーテンの向こうに、ハイヒールを履いた女性の足が見えたんです。

 

相手も僕に気が付いたようで、話しかけてきました。女性のセリフを書くというのは、気恥ずかしいのですが、再現するために少し書いてみます。といってもいちいち細かい会話から書くと長くなるので、お互いに自己紹介がおわったところからです。

 

「ねえ、貴方はとても美しいのね。良い顔立ちをしているわ」

「いえ俺は別に、それは貴方のほうですよ。もちろんカーテンで見えませんけど、美しいに違いないのは僕にはわかります。失礼かもしれないですけれど。」

「それはカーテンが美しいからそう見えるだけよ。貴方はその先にさぞ美しい女性を想像しているようだけど、覗いてみたら、足だけしかないのかもしれないわよ。」

「それじゃあ怪談だ。ということは、貴方はもう天国の人で、このパーティーの帰りに、俺は交通事故かなんかで、貴方の霊に道連れにされるというわけですね。でもそれはなかなか光栄なことです。」

 

俺は、今は私といっていますが、とにかくその時の俺は、そんな会話をしたはずなんです。彼女の声はよく覚えていません。とにかく自分でも珍しく饒舌にはなすことが出来たんです。お酒のせいかもしれません。

俺はもう待ちきれなくなって、彼女のカーテンを開いてしまうことにしたんです。その美しいカーテンの先に、なにがあるのか。内心は本当に足だけだったら、どうしようと、ドキドキしながら、一歩一歩近づいて、カーテンを開けたんです。

 

そしたら、そこは闇でした。俺は闇の中に立っていたんです。

俺は何が起こったのかわからなくて、後ろを振り返ればよかったんですが、その闇の中に星を探してしまったんです。つまり今振り返ると、あの時の俺には、その闇が何かの宇宙のように感じられたんです。

そうして、その宇宙の中を一歩踏み出そうとした時に、俺は窓際で、友人に羽交い絞めにされていることに気が付きました。

 

友人の話によると、おれは窓から飛び降りようとしていたとのことでした。そして女性などはカーテンの向こうにはいなかったとも。

それからは何事もなく時がたち、あの女性にもいまだに会えずにいます。金持ちで命の恩人である友人とはその後親友になり、今でも仲良くやっています。

ただあの時の印象は、俺の人生を大きく変えてしまいました。俺はもともとは文系の大学にかよっていましたが、その後、美術系に進み、今ではデザイナーをしています。

 

あの時のカーテンは美しかった。あの時のハイヒールを履いた女性の足は美しかった。もしそれが幻想で、その先が闇なのだとしたら、俺にはそれが許せないのです。美が幻想だなんて言うのは、相手が神でも俺は許すことはできないとあの時以来思っているのです。

もしあの時の美の感覚を自分で表現できるのなら、そして、あの宇宙に到達できるのなら、俺は・・・

 

 

 

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