田舎に住んでいる爺ちゃんに聞いた話。
(1)狐がばかす
よく狐や狸はばかすという。そんな馬鹿な江戸時代の話かよと思うが、山村の人にとっては山道で出くわす現実の問題らしい。
例えば、あきらかに場所にそぐわない美女があるいているとか、人魂が沢山浮いているとか、どう考えても存在しないはずの道が突然表れて、そこに行ってしまうとしばらく神隠しに合うとか、縁日の屋台が突然現れてそして突然消えるとか。
繰り返すが、これは実際に多くの人が体験していることだ。たださすがに科学が進歩した現代ではそういう体験はかなり減っているということだ。
(2)狐の正体
爺ちゃんは、山で狐に化かされた人を見たことがあるという。その人は山に入るたびに狐と相撲を取っていると周りに言っており、爺ちゃんはその現場に偶然居合わせたとのこと。
山の中で、その人は一人で相撲を取っていた。その人に声をかけると、今狐と相撲を取っていたと言ったそうだ。
現実はこんなもんだ。狐が化かすというのは一種の幻覚のようなものなんだろうな。
(3)消えた村人
ある時爺ちゃんの村の住民、猟師のBさんが行方不明になったそうだ。村内では神隠しか、Bさんともめていた猟師のCさんの犯行という憶測がとびかったが、結局Bさんがいつまでたっても見つからないことから、この事件はしばらく迷宮入りとなった。
ただ爺ちゃんは、事件から一年ほどたった時に、行方不明のBさんがどこにいるのか、ある存在から教えられたという。それが狐だ。
山道で突然霧が出てきて、迷っていると狐が表れて、相撲を取ろうと言ってきた。格好は和服を着て、人間のような体でしかし顔は狐だったという。
爺ちゃんは、こいつは幻覚だと思い相手にしようとしなかった。そりゃそうだ第一狐には人の言葉を話す能力はない。
けど狐はひきさがらなかった。だから爺ちゃんは本当に妖力をもった狐だというなら、なにか証明してみろといった。
そしたらその狐は、行方不明になっているBさんの居場所を教えてやると言ってきた。狐が言うには、Bさんはある洞窟の中で、既に骨になっているとのことだった。
それで爺ちゃんにはピンときた。その地域では、猟で仕留めた動物の供養のために、骨をある洞窟に埋葬する習慣があるんだよ、そこは神聖な場所で骨を埋葬する時以外は、立ち入り禁止になっている。
Bさんは、いやBさんの遺体の骨は、そこで動物の骨にまぎらわせて、隠されているということなんだ。
ではこれでBさんの骨が発見されたかというと、それはNO。爺ちゃんはこのことを誰にも話さなかったという。狐なんか信じてないし、第一発見者で自分が犯人扱いされたらたまらないとのこと。
結局その数か月後、Bさんの骨は洞窟でみつかり、Cが逮捕されてこの一件は落着した。
これが俺の聴いた話。爺ちゃんは最後まで狐など幻覚だと言っていた。常識的には俺も同意見なのだが、それでも少しちがう印象を受けた。動物の狐が化かすというのはたしかにありえないと思う。でも山にはやはり、人の目には見えなくても何かが存在するのかもしれないとは思う。