「怖い話」気が長い幽霊

 

かったるいバイトでも、癒しの存在がいれば話は別だ。
たまに一緒になる年下の女子、大学を1年留年して今年23の俺を先輩と読んでくれるかわいいやつ。いつも笑っていて、派手な感じではなく黒髪だが、イメージ的には黄色とか金色を思わせる。

でもたまになぜかふと悲しそうな顔をするし、前から気になってはいたが、今もそうしていて、俺にはそれが我慢できない。俺は勇気をもって、彼女の悩みを聞いてみたい、でもそうすれば俺は、自分にとって彼女が癒しではない、それ以上の存在になってしまうかもしれないことも予感している。それなのにな。

「実は・・・でもこんなこと人にいっていいのか、本当に個人的な問題で」
「いや別にかまわないよ。こっちが聴いたんだし。俺でよかったら相談に乗るよ」
「ありがとうございます先輩」

先輩・・・少しあざといとは思うが、わかっていても、大切な響きだった。気色悪いし不釣り合いなのはわかっている。俺はもう社会に出ていてもおかしくないのだから。

「実は、私呪われているんです」
「呪われているって、幽霊とか?」
「はい・・・」
「大丈夫だよ。おれが相談にのるからさ。何もできないかもしれないけど。同じバイト仲間なんだから」

戸惑いうつむく彼女に、俺は特に意味もない励ましをすることしかできない。

「お化けとかのことって、人に話していいのか、変な子だと思われたらいやだし、お父さんにも人には言うなって言われたし、でも先輩なら、きっと相談にのってくれるから、私勇気をだしますね」
「おう、その意気だ」

「昔、私のおじいちゃんが、ある写真のせいで、死んでしまったんです。その写真はずっとおじいちゃんの片身として封印してあったのに、私が幼い頃、5歳の頃に、それを持ちだしてから、今度は私にとりついてしまったんです。その写真に取りつかれた人はみんな死んでしまうんです。次は私の番なんです」

「その写真が呪いの写真なのかい?」
「はい、今もこうして私はその写真を持ち歩いています。というより写真の方が捨てても捨てても、もどってきて離れてくれないの」
「その写真を見せてくれ」
「待っててください、更衣室に取りにいってきます!」

いつも付きまとうという割には、別に近ければ違う場所にあってもいいらしいな。

「ハイこれがその写真です。」

神社を撮影した写真だな。しかしその中に一人だけ右端のほうだが不自然な人間が写っているな。こいつは少しだけ右回りにこちら側に体を向けてはいるが、基本的にはほとんど後ろを向いている。振り向く途中と言った感じもするが、おそらく男だ。他に人は映っていないのだが、それとは関係なく、こいつの存在だけ明らかに何かがおかしい。

「その男の人が、少しずつこっちに向いてくるんです。それでおじいちゃんは死んでしまって。その人が正面を向いてしまったら、私も死んでしまうの」

怪談は詳しくないが、こういう話は聞いたことある気がする。写真とか絵とかで後ろ向きを向いている人間が、なぜか時間と共に振り向き出し、正面をむくと、その持ち主は死んでしまうというやつ。

そんなことが本当にあるのかはわからないが、目の前で人が悩んでいるのだから、それをむげに否定できない。

「それで、この男は今まだ斜め後ろを向いて、ぜんぜん顔なんて見えないけど、少しずつ振り向いてはいるんだね。でもあとどれくらいで振り向きそうなんだ?お祓いとか行けば何とかなるかもしれない」
「だめです。もう何件も行ったけど、みんなインチキばかりで、変な壺とか買わされそうになるし、唯一まともな人もいたけど、とても私の手には負えないと、相手にしてもくれませんでした」

「じゃあ、破り捨てたらいい」
「だめです。破り捨てても違う写真に入ってくるんです」

「しかし、何らかの対策はあるはずだよ。実際どのくらいのスピードで男は振り向いているんだい。とにかくまだ時間はあるはずだ」
「振り向く時間は、一年に本当にわずかずつです。私が5歳の頃にはまだほとんどま後ろでした。振り向くスピードは、たぶん分度器で測ると一度とか。でもその人が振り向いたら、私死ぬんだわ」

「いや何か・・・あるはずだよ!」
「先輩ありがとう、私、こんなに真剣に悩みを聞いてくれるとは思いませんでした」

彼女の瞳は涙でぬれているのに、無理をしてそれを手でぬぐい、笑顔を作って、それがとても輝かしくて。

なのに、目の前でこんなかわいい子が、悲しんでいるのに、しかも俺をたよってくれた。それなのに、必死に涙をこらえているのに、何もできない自分が歯がゆい。もし俺の単位と、彼女の寿命を交換できるのならば、よろこんでそうする。あと一度の留年なんかなんてことはない。もう一年大学にいればいいだけだ。

「一年に一度か・・・・・?」

いやよく考えたら、一年に一度では、まだ少し斜めに傾いた程度の男が完全に振り向くまでには、あと150度以上あるから、いやこの子何歳まで生きるつもりだよ。

男が正面をむくまで合計180年もかかる計算だ。どう考えても悠長すぎる。つまりこの呪いには何の効力もない。

「ねえ聞きにくいんだけど、おじいさんが亡くなられたのは、何歳くらいのことなのかな?」
「はい・・・たしかおじいちゃんはこの写真を50歳で手に入れて、それから10年後に亡くなったそうです」

10年か、呪いとしてはまあ妥当かもしれない。しかしこの娘の場合には180年かかるんだよな。どうして人によりそんなに振り向く時間が違うんだ・・・・・

自分の頭をクリアにしなければならない。効力のない呪いに何の意味があるのか?
考えろ、考えるんだ、こういう時には、相手の立場に立って物事を考えるのが鉄則だ。俺がこの男の立場なら・・・・・もしかしてこいつ!

 

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