「自作小説」走る犬 短編2000字程度

犬が走っている。何にもつながれず、野原を走っている。
嬉しそうに、楽しそうに。

(いい気なもんだね。犬なんてのはただ走ってさえいれば幸せらしい。あとは草に体をこすりつけたり、そんな単純な事でやつらは満足できるなんて羨ましいね。)

「やあ君、犬を見ていたのかい?」

草原でバーベキューでもしているのだろうか。
人の群れを離れて、物思いにふける男のところへ、友人が飲み物をもってやってきた。二人は寝転んで、何事かを話した。

「ああ、犬がね、あいつらは楽しそうだなと、楽でいいねえ、人間と違って。あれはKのところの犬だろう、だとしたら幸せ者だよ、あんなお人好しに飼ってもらえて。きっと犬にしては贅沢な食事もしていることだろう。俺が犬になりたいぐらいだよ。」

「確かに、あの犬は今とても楽しそうだね。でもそれはKに飼われて可愛がられているからではないよ。あの犬は、今草原を走っていることがうれしいに違いないよ。素敵な犬だ。」

「ただ走っているだけだろう、いつから愛犬家になったんだ?
ああいう人種はな、犬のあの可愛いらしい外見やしぐさを見て、自分の言うことを従順に聞くところを見て、奴らは善良で賢いに違いないと、そう思い込んで自己満足している人間なんだよ。まあそういう幻想の中で暮らしている内は、人間なんて幸せな物だな。でも実際に現実というものを思い知ると、途端にそれがつまらない物であることがわかってしまうんだ。

犬なんてただ走ったり、布をのひっぱりっこしたり、そんな単純な事でしか、喜びを感じられないんだぞ、愛するほどに知能が高いか?それに、旨い飯を与えても、ちっとも味わおうとしない。第一に、奴らが善良なんてのが一番の幻想だよ。犬ってのは自分より弱い生き物をいじめるのが大好きなんだ。お前だって小さいころ近所のGさんのところの犬、放し飼いにされてたあいつに、追いかけられたことがあっただろう?」

「なんだよ、今日はやけに饒舌だな。まあ確かに人間から見たら、犬は理解できないところがあるよな。」

「俺がいいたいのはな・・・・・・飼われて自分より強いやつに尻尾を振っているやつらは、畜生なんだって、そう言いたいんだよ。」

「・・・・・・・・・・・・なんだよ、まったく犬にかこつけて、まだあのことを気にしているのか、まあ確かに今度の人事は、仕事の実力を反映した物とは言えないわな。」

「ああ、そうだろう、本当なら俺があそこにいたっておかしくないんだぜ。明らかに不当な見る目のない人事だ。ただ、ごますりが旨い連中が得をして・・・・・」

「・・・・・・・だったらお前も、そのごますりをやってみるかい?あれはあれで大変そうだけどね。まあお前には無理だろうな、小学生のころから知っているんだ、がらじゃないよ。」

「別に無理じゃないさ・・・・・・ただ俺は・・・・・・もっと高度な事をだな・・・・・世の中なんて、見た目の印象にごまかされて、いろんなことに縛られて、人間なんて、高度な意思なんて、自由な意思なんてどこにも持っちゃいないじゃないか・・・・・・・・・・・俺は見た目だけの成果は嫌なだけなんだよ!」

「Sのことだろ・・・・・・あいつはあいつで、かなりすごいやつじゃん、例のプロジェクトを成功させてさ。むしろ世間や会社ではあいつの方がお前より、ずっとすごいやつだと、そう思うのはおかしくないんじゃないか。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝手に言ってろ・・・・・そうか、お前もか・・・・・・、もういいよ・・・・」

「・・・・・・ごめん。言い過ぎたよ。最近沈んでるから、そんなお前を見るのがつらくてな。
お前は現実がどうこう言っていたけれど、現実お前のやってきたことは素晴らしいと思うぜ。俺は見ていたよ・・・・・みんなが派手な成果や、見栄えを追及している中で、お前がそれとは違うことを求めていたことを。俺は知っている。それがSに劣らないことを。俺はお前のやっていること、好きだね。俺はお前のその、ええと、姿勢に感動して・・・尊敬しているんだぜ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・ああそうか・・・・・・・そうだったのか・・・・・・・いやそうなんだ・・・・・・・・俺がやってきたことは・・・・・・・・・・・・・・でも、会社じゃ、そうは思わなかったようだけどな・・・・・・・」

 

「・・・・・会社、世間・・・・・・独立でもするかい?」

「いや、そういう意味では・・・・・すぐに極端な話をするのも、お前の悪い癖だな、まったく人の弱みに付け込んで、偉そうなことばかり言いやがって。大学時代レポートを散々写させてやった恩を忘れたのか。」

「・・・・・・・・・・、いや-、そんなことあったかな-・・・・・・・・
それよりも、ええと走ろうぜ、あの犬を見てみろよ、野原を自由に走って、本当に楽しそうだ。いま彼は自由なんだ、それは繋がれていないからでも、高度な意思を持っているからでもない、ただ彼は自由なんだ。
確か、五郎っていったよな。おーい五郎、俺も入れてくれー一緒に走ろうぜー」

1人が犬の方へ駆け寄っていった。
「まったく、ごまかすのだけはうまいやつだ、第一、落としてから、上げるなんて、いつからそんな残酷な子になったのやら。
そうか、自由か・・・・・自由って一人のこととは違うんだな。犬か、いや五郎・・・・おーい、俺も仲間に入れろよー」

もう1人が駆け出して行った。

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