「怖い話」青い花の男の子

 

 

これは私が小学生の時に体験した出来事です。

ある日の放課後、公園で友達とおしゃべりをしていた私は、学校に宿題を忘れたことに気が付きました。

時間は確か4時ごろだったと思います。私の通っていた学校では4時ごろまでは校庭で遊んで良いことになっていましたが、一度下校したら再度校舎の中に入ることは禁止されていました。

でもその頃の私は宿題を忘れがちで、これ以上親や先生に怒られるのが嫌だった私はいてもたってもいられずに学校に向かいました。

いざ着いてみると、校舎にはすんなり入れました。どうやら先生たちは職員室にいるのか、校舎内には人通りがまったくありませんでした。夕日が校舎内に入り込んでいて、とてもきれいで静かなひと時でした。

ただそれは今だからこそ思い出せる情景で、その時は先生に見つからないように、ドキドキしながら歩いていました。幸いに誰にも見つからず、わたしは2階の自分の教室にいき、おそるおそる中をのぞきました。

私はおもわず「あ!」と声を出しそうになりました。誰もいるはずのない教室に、見たことのない男の子がいたからです。その男の子と目が合い私は身動きが取れませんでしたが、その男の子は私に笑って見せてくれました。

男の子は隆志君という名前で転校生だといっていました。彼は男の子なのに色白で、目鼻立ちもわりとくっきりとしていました。

30分ほど私たちは何となく取り留めのない話をした気がします。私は一緒に帰ろうと誘いましたが、先生に待つように言われているからと彼が言ったので、見つかったらまずいと私は先に帰りました。

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翌日は何事もなく過ぎていきました。宿題も忘れなかったし、誰にもばれていない様でした。彼はいつ転向してくるのだろう?自分しか知らない秘密ということで少しわくわくしていましたが、経緯が経緯だけにそれを誰かに話すこともありませんでした。そして結局彼は転校してきませんでした。

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ある日の午後、私は委員会活動の後片付けで、たまたま一人で視聴覚室にいました。後片付けもおわり、部屋を出ようと後ろを振り向くと、そこに彼がいました。

私はとてもドキドキしていました。そんな私にかれはまた微笑みかけたと思います。それから私たちは、また話をしました。彼は何かの本の話をしたと思います。たしか青い花に関する本についてでした、それが文学作品なのか、図鑑みたいなものなのか、その当時の私にはわかりませんでした。ただ私は彼と話すことが妙にうれしかったのです。

彼とどう別れたのかは、はっきり覚えていません。色々とおしゃべりをしたと思ったのですが、時間はほとんど足っていないようで不思議でした。ただまた会いたいなと、そんな気がして、でも彼とはまたしばらく出会うことが出来ないという確信もありました。

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そして少しの月日が流れ私が引っ越しをすることになりました。わたしはどうしても最後に彼に会いたくなりました。

放課後の教室にも視聴覚室にも彼はいませんでした。学校中を探し回ることは無理だったので、私はあきらめて先生に見つからないように、プールのそばを通って帰ることにしました。フェンスによりかかっている彼にそこで出会いました。

私は彼にお別れを言おうとしましたが、なかなか言い出せなかったのです。彼はまた本の話を始めました。本の話をしている時の彼は、とてもイキイキしていて、私にはそれがうれしくて、とても不思議でした。

彼は前にあった時とは比べ物にならないぐらいに饒舌さに拍車がかかって色々な話をしてくれました。私はなんとかそのすきをぬって彼に引っ越しのことを伝えようとしました。でもその努力も彼の言葉でさえぎられてしまいました。

しかししばらくすると急に彼は何も言わなくなりました。気がつくと彼はこちらを真剣な目でみつめていました。彼はためらうように

「僕たち友達とかになれるのかな、僕は君の友達になってもいいのかな」

そういいました。私は少し怖かったことを覚えています。ただだまってうなずきました。

少しの静寂の後、最後は、お互いを茶化すような会話をして別れた様な気がします。明るい別れでした。彼は青い花をくれました。お互いに忘れないようにこの花を記念にと。

 

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一か月後私は転校しました。彼にはその後一度もあっていません。青い花は押し花にしてとってありますが、名前を調べたこともありません。私にとってそれは淡い夢、宝物のような時間でした。だから調べる必要はないのです。

この宝物を私は一人で大切にしていこうと思っていました。あえて文章にしたのは、私の寿命が長くないかもしれないからです。私の人生の回顧録としてここに書き残しておきます。

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