「自作小説」宗教の話 短編1500字程度


 

ある家に一人の男がこもっていた。

その日、外は大嵐が吹きすさび、人々や建物や牛など、森羅万象ありとあらゆるものが、傍流に翻弄され、流転し、宙を舞っていた。

 

その日外出していたある男は、狭いビルのあいまで強風にあおられ、20メートルも飛ばされた先で偶然にも親切な女と出会い、それが縁で後日結婚する幸運を手に入れた。

またある老人は風でかつらが飛ばされたのに文句を言っていたが、実はそのかつらは後日一家の長の体面を保つのに、いやカラスの雄が、愛する雌にプレゼントする住家として利用されることになった。

 

まあこんな感じで、塞翁が馬、何が起こるかわからないのであるから、このあまりに短い短編の主人公たる男、このような酒もギャンブルもやらないような、堅実な人間には、とんと外を出歩く気にはなれなくて、とにかく窓を木板でふさいで、何もかも見えないようにして、一日ふさぎ込んでいることを決めていた。

 

勿論、彼にも外に行きたい衝動はあった。そりゃあ退屈だからだ。彼の部屋には、インターネットだの、漫画だの、駄菓子だのがあり、別に苦労はしなかったが、それでも外の喧騒に比べたら物足りない気がしたのだ。

 

彼は吹きすさぶ嵐の中を闊歩したい衝動に何度もかられ、玄関のところへ何度かいったが、しかし玄関も彼自身が打った板張りで、ほんの気まぐれで出るには、厄介そうであった。

 

彼は、玄関から戻ると、目の前の、駄菓子やらをみて「我足るを知る」と言って厳粛な面持ちで貪り食い、それですっかり我慢を決め込んでしまった。

 

そうこうしている内に時は過ぎて、夕方になった。彼は一日を無駄にしたのではとか思い、最後に外に出るべきかを迷ったが、それでもやはり危険には会いたくないと、キッチンで鍋焼きうどんを作って、こたつに入って一人で食いながら、「寂寞に・すする小田巻・郷思う」なんてよく意味の分からない俳句を作って、温かい気持ちになって満足した。

 

夜になっても嵐は続いていた。一向にやむ気配がない。彼はその音で心がざわめき、眠ることができなかった。ごうごうと、それは続いた。もう12時、いや24時だ。寝苦しい夜を耐えていたら、なんともう一日が終わったのだ。

しかし嵐はまだ続いていた。このころになると彼も観念して、煩悩を捨て去るために、「諸行無常」、「諸行無常」、そういいながら眠りについた。

 

夢の世界で、彼は嵐に翻弄され、苦しみ、もがいていた。しかもあろうことか、竜巻に巻き上げられ、自分だけが宙をまっていた。周りの人たちは、何故だか今度は立場が逆転して、みな晴れの日にティータイムを楽しんでいるような人たちばかりだった。彼の周りだけで、台風、竜巻という天災が起きていて、その周りの人は全員幸福な晴天に恵まれて、彼のことなど誰ひとり気にも留めないで、ひと時を楽しんでいた。

 

彼は、俺の仲間たち、台風にあえぐ不幸な人たちはどこに行ったのだろうか?なぜそんな人たちがいなくて、まわりにはこんな晴れの日を謳歌する人々だけがいるのだ・・・・台風にも負けず、竜巻にも負けず、嵐の中を歩いていた勇気ある人々は、どこに行ってしまったのだろう? なぜこの晴れ人間たちは俺の存在を無視するのだろうと? そう恨めしくなった。

 

しばらくそんな夢をみて、かれはそれでも足掻き、夢の終わりには、なにかとても大切なものを手に入れたような気がした。彼は竜巻から脱出し、しかしそれでも、周りの晴れ人間たちをしり目に、台風に猛烈と突き進んで、そしてその後、良きにしろ悪きにしろ、出会いを経験し、例えば師匠、恋人、親友、そういう道ずれと共に、奮闘して、目的地にたどり着いたのだ。

 

しかしそれが何なのか、何処なのかは、結局思い出すことが出来なかった。もう朝が来ていたのだ。一番覚えておきたいものこそ、夢はとっておいてくれないのだ。

 

彼は窓にうっていた板をはがしてみた。嵐はすっかり過ぎ去り、雲の間から光が、晴天が訪れていた。彼はやおらに、さわやかな気分になって行った。昨日感じた、悩みや葛藤が嘘のように消え去っていった。

 

そして、その後に彼の頭上に台風は二度と現れなかった。

通りを見ると、子供が元気に走り回って、水たまりで跳ね回りながら遊んでいた。ああ、祭りが終わってしまったのだ・・・・彼はそれを理解して、少し悲しくなった。

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