「怖い話」幽霊を撃退した男


 

これは昔RAIMEIが、高校生の頃学校の図書室で借りてきた怪談集にのっていた話です。その本がどんなタイトルだったか忘れたし、検索しても出てこないので、適当にあらすじを思い出しながら脚色して描いていきます。

 

「幽霊を撃退した男」

私の会社の同僚が数年前に体験した出来事です。

その同僚というのは、その当時30代前半だったんですけど、こいつが、まあずぼらで図太い男で、社内でもちょっとした有名人でした。

 

その彼が、とても安い家賃の一戸建てに引っ越したと言うので、仲間内で集まって、そこで飲むことにしたんです。以外にも彼を慕う人間は多かったんです。

ええ、もうお気づきだとは思うんですが、案の定その家入った瞬間、ものすごく嫌な気配を感じました。もうそこにいる間ずっとです。特に我々が飲み会をした居間はひどかったです。

そこは、一戸建てとしてみると小さいですし、交通の便も特段優れているわけではありません、しかし独身男の住まいとしては、十分に広いし、第一家賃がありえないぐらい安くて、なんと一月3000円ですよ。まあ早い話いわくつきの物件だったんです。

私達仲間は、それとなく彼にそのことを尋ねました。彼が言うには、会社から帰ってくると、つけた覚えのないテレビや冷房が勝手についていたり、シャワーを浴びていると誰かにドアをノックをされたりとか、なんか妙な気配を感じることがあるとか、散々脅かしておいて、「でもそんなのは気のせいだろ」、と涼しい顔で言っていました。

結局、私達仲間は、時間を切り上げて、その日は早めに退散したんです。もちろん最低限の付き合いはしましたけれど。でも彼以外の一同は同じ印象を持っていたはずで、一刻も早くその場を離れたかったんです。もうやたら寒いし、その居間の窓から誰かに見られているような感じがするしで、一人また一人と、理由をつけては退散していったという具合です。

 

最後は俺と彼の二人きりになってしまいました、変な貧乏くじをひかされたもんだと、我ながら嫌になりましたが、彼と一番親しいのだからしょうがないじゃないですか。彼は退散していく仲間に対して、「気が小さいやつらだ」と不満たらたらでした。

まあここははっきりと、男らしく言うしかあるまい、たとえ表面はいい物件であったとしても、安物にこだわって、健康を壊したり事件に巻き込まれたりしたら、もともこもない。いえ幽霊なんて大の大人が信じているかと言われたら・・・・・しかしそれでも確かにあそこには何かがいたんです。

俺は彼に、この家には霊がいると、そうはっきりと言ってやったんです。ここで何か得体のしれない者が・・・・・とか言っても彼には通じません、だって超がつくほど鈍感なんですから。

 

そうしたら彼はなんていったと思います?

 

「ふむ・・・・俺は非科学的なことは信じないが、しかし科学で証明されていないことを頭から否定するほど権威に盲従的でもない、ようするにだ、霊がこの家に実在するとしてだよ、それでも俺は家賃の安い家を出て、金を失うことの方が、貧乏の方が幽霊なんかよりもよっぽど怖いね」

とそういったんです。要するに彼は超がつくほどのずぼらで、図太くて、鈍感で、ドケチだったんです。

いつもは何でも、適当・適当で笑って済ます彼が、この時ばかりは科学だのと、妙に理屈めいたことを言うので、こちらとしても、もうこれは何を言っても無駄だ、相手に出来んと思ってそこで帰りました。(なんてたって、彼はミスをして、会社や、私たち同僚に迷惑をかけた時でさへ、そんな風に貫き通して、なんやかんや許されてしまうぐらいの人なんですから)

 

 

それからの数か月間、我々会社の仲間は、彼に変わりがないかどうか、様子を見守りました。こういう事故物件に住むと、呪われるだの、痩せこけるだの、事故に合うだの、色々とよくないことが起こるのでは? そう考えて彼を心配したのです。

彼が言うには、相変わらず、つけていない電化製品が勝手についたり、勝手に家具の配置が換わっていたり、洗いものがいつの間にやら、かたづいていた時すらあったり、ドライヤーがいつも充電されていたり、もしかしたら俺に惚れている女の幽霊の仕業か?なんて言っていました。ええそうでしょうよ! 確かに彼のスーツの肩に、たまに艶っぽい長い髪が絡み付いているのを何人かが目撃していたんですから。

 

我々は、彼に引っ越すように助言しましたが、彼は

「いや、あそこはいいよ。安いし絶妙に周りに建物がないし、車どおりも少ないから、夜中でも自由気ままでいられる、今までの社員寮よりも周りに人がいなくて、気を遣わなくていい点が本当に素晴らしいよ」

なんて言うんですから、一体彼がいつ誰に気を使ったというのか、教えてほしいもんです。

とにかく要約すると、答えは以前と同じです。

「幽霊などいない、気のせい、それより貧乏が怖い」

 

 

まあそんな彼ですから、その不気味な家、いえ幽霊屋敷に住み続けたわけですよ。ところで貴方!、女の霊が出てきて、長い髪が彼にかかっていたり、食器が勝手に洗われていたりと、もしかしたらこれが心霊話なのもかまわず、心のどこかで、ついなにかロマンスめいた想像をなさったのではないですか?

確かに黒髪の乙女の幽霊と無神経男との命を超えた愛というテーマは魅力的です、でもねそんなものは起こり得ないんです。彼が女嫌いだから?いえいえ違います、それは彼がどうしようもないほど、図太くて無神経だからです。

 

 

まあそんなこんなで、彼は大して、不幸な目にも合わず、健康に暮らしていたわけです。普通の人ならあんな家は3日もいれば十分勇敢と言えるでしょう。

しかしついに彼にも決戦の時が訪れました。

その家に潜む何者かが、彼の前に明確な意思を持って彼の前に到来したのです。

 

ある休日、彼は居間で寝そべっていました。すると、天井に女性の顔がはっきりと表れたのです。そしてその顔は明確な悪意をもって、彼を嘲笑い、板張りの天井をぐるぐると移動しました。体は動かず、ずっと耳鳴りがしていたそうです。

しだいに、その女の顔は、天井のあるところで止まり、そして消えていきました。彼は体が、動くのを確認すると、天井裏に何かあるのかと、脚立を持ってきてそこを調べました。

狭くて暗い天井を調べると、たぶん女がとまった例の位置にお札がはってある箱がかくしてありました。そしてその中には、市松人形のような、日本人形がはいっていたのです。

 

私はこれを聞いて、ははあ、女の方もついに我慢が出来なくなって、実力行使に出たなと、そう思いました。ここから彼に身には、事故、破産、隙間に挟まった恋人に夢中になったりと、様々な怪異が襲いかかるに違いないと、そう身構えたのです。

 

 

でも、そんなことにはなりませんでした。もうそれっきり怪奇現象は起きなかったのです。

もしかしたら、悪い幽霊ではなくて、その人形を見つけてほしかった可能性も考えられます。しかし例えそうだとしても、彼に頼むのが間違いですし、まあ良い幽霊にしろ、悪い幽霊にしろ、どちらにせよ彼に取りつくのは全くの時間の無駄だったんです。

 

彼の図太さにはあきれましたよ。彼はその人形も、お札のついた木箱も、その日のうちにたき火で燃やしてしまったんですから。美味しい芋が焼けたと自慢していましたよ。

これじゃあ幽霊も付き合いきれませんよ。

いやな気配もそれっきり消えて、すっかり普通の家、超優良物件になってしまいました。彼はそこに結婚するまでの5年間住み続けましたよ。そうです、彼はその図太さ、無神経さで幽霊を撃退したのです。

だから彼は「幽霊を撃退した男」なのです。

 

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