俺の大学の友人の体験談です。
その日そいつは、ええと仮にОとしておきます。
Oは数人の友達と一週間ぐらいの海旅行に来ていたんです。
そして、海で泳いだり、水着の女の子に、青春輝ける太陽のようなその微笑みと柔肌に鼻の下を伸ばしたり、まあ満喫したわけです。
しかし、そこで事件が起こったんですよ。
5日目の午後昼食を食べて、パラソルの下で、彼が寝そべって、いい加減海も飽きたので、ワンピースのアラバスタ編を読んでいると、突然悲鳴が聞こえました。なんと沖の方で人がおぼれていたのです。
しかしOはとても冷酷な人間だったので、何も気にせず、ワンピースを読みつづけました。
例え気にしても普通の人間なら、助けられる距離ではありませんでしたが。
けれどOはすぐ考えを変えて、海に飛び込みました。実はおぼれているのが、Oがその旅行中ずっと目をつけていたギャル美ちゃんだったのです。ギャル美も数日間海に滞在していたらしく、実は失恋したばかりのOはそのギャル美を狙っていたそうです。
しかし、ギャル美はかろうじて水面でもがいているだけで、もう助からなそうに見えました。そこにいる人全員なぜかそれがはっきり克明に見え、分かったようなのです。
時間がない、普通の人じゃまず助けられません。しかしOは普通ではありませんでした。
彼は水泳の達人だったんです。「ありったけのーゆめ―をかきあつめー」彼はワンピースのOPを歌いながら揚々と、彼女の元に駆けつけました。
そこで彼女の体を支えて役得を満喫しようとしましたが、しかしそこに立ちはだかる存在がありました。
なんと、そこには白装束の婆さんが、腕を組んで宙に佇んでいたんです。Oには霊感もあるようです。いえ、嘘ではありません!一緒に旅行に行った同じゼミの霊感少女Mちゃんも、しっかりこの目で見たと言っています。
とにかく、その婆さんは、Oのことを強く睨み付けたと思うと、いきなりとび蹴りを放ってきたんです。そうなんです、どうやらギャル美がおぼれていたのは、その婆さんに頭をとび蹴りで殴打されていたからなんです。
しかしOはひるみませんでした。なぜなら彼は空手の達人だったからです。
さんちん立ちの原理を応用して、海の上に平然と立ったOに対して、婆さんはとび蹴りの連打を敢行しました。
Oは、鉄壁の前羽の構えで対抗し、回し受けで全てのとび蹴りを受け切りました。足から出血し、打撃技が有効でないと悟った婆さんは、とび蹴りをおとりにして後ろに回り込み、関節技に持ち込もうとしましたが、それも結局Oには通じませんでした。
「お前何者だい?人間風情がこの私にここまでの傷を負わすなんてねえ」
「あんたこそ、そんな年で大した動きだよ。そういえば、たしか数か月前、峠でやたら足の速い婆さんともやったが、その親戚かい?」
「・・・・・そうかい、ターボちゃんを成仏させたのはお前さんだったのかい、こりゃあ許しちゃおけないねえ。」
「おいおい、女性に手を上げるような男じゃないんだぜ、おいらは。どうするきだい?」
「骨抜きにしちゃう♡」
婆さんは、ついに禁断の技を解禁しました。足尖蹴り、風魔殺、六波返し、ありとあらゆる殺人技を駆使して、Oを追い詰めました。
Oからすればいくら強くても女性を相手に本気を出すわけにはいかなかった、しかしその迷いが、美意識が、Oを窮地に立たせました。婆さんもまた達人だったのです。
達人同士の戦いではほんの一瞬でも自らのリズムを崩した方が圧倒的な不利になります。婆さんの攻撃は全てクリーンヒットし、Oの頭蓋骨の縫合は外され。顎は外され、複数の骨が破壊され、一時的にですが片目の視力も失われてしまいました。
「ほ、ほ、ほ、これは勝負あったねえ、いい男が台無しだよ。私も鬼ではないし、今楽にしてあげるからねえ。」
「く・・・・・・どうすれば・・・・・」
もうOとギャル美の運命は風前のともしびでした。
しかし、その時奇跡が起きました。
ギャル美が衝撃の発現をしたのです。
「お願い勝って!勝ってくれたら何でもしてあげるから!」
「・・・・・・・・・ん?今なんでもするって言ったよね?」
Oの闘気が一気に高まり、そしてそれに呼応するように、ビッグウエーブが彼らに押し寄せました。
婆さんは、その瞬間、Oにとびかかり、渾身の力でとび蹴りをはなちました。
「津波と一緒にしずんじまいなあああああああ、URYYYYYY」
しかし、そこにOはいなかった・・・・・・
「どこだい?、何故いないんだい!?・・・・・・」
「ばあさん、ここだあ、きゃおらあああああ!」
それは一瞬のことでした。とび蹴りを放つ婆さんに対して、Oはビッグウェーブの方に飛んで、そしてその波を足場に、三角とび蹴りを敢行したのでした。その一撃は婆さんの顔にクリーンヒットし、勝負は決しました。
戦いは終わり、波が去ると、二人はお互いをたたえ合いました。
「まったく、こんな小僧に成仏させられるとはねえ・・・・・・私も年だね」
「よく言うぜ、あんたのせいで、全身血だらけだよ。その上海水がしみるのなんの。」
「・・・・・ふっ・・・・あんたのこと忘れないよ。今度会ったときは、まあ来世かねえ・・・・あんたのためにお蕎麦でもゆでてあげようかねえ」婆さんは天に召されていった。
(ったく、前の婆さんも同じこと言ってたよ・・・・・・・)
彼は無事にギャル美を救出して、一躍ヒーローになった。怪我の方は危険であったが、彼は解剖学とエーテル呼吸法の達人でもあったので、完璧な応急処置をしており、大事には至らなかった。
後日
ネパール人のインドカレー屋にたむろする彼の姿が・・・・・・・
「ねえ、何でもしてくれるっていったじゃないの・・・・・・」
「いやあねえ、私ここのウェイトレス兼&看板娘だから、ナンでもあげるっていっただけよ。もーお馬鹿さん!」
いい感じの二人だったが、まだ恋人と呼ぶには遠いようだ。
彼も恋愛だけは素人だったのでした。